街角に住む猫には、過酷な運命が待っている

東洋経済オンライン 12月2日(水)6時0分配信

武蔵小山駅前の駐輪場跡にて。
ここでさんざん日向ぼっこしたけれど、再開発が本格化すればお別れだ。
猫の連載もこれで最終回。
第1回で示したように国内飼育数は、これまで王者だった犬に迫りつつある。
こうした「猫ブーム」とも言うべき現象の裏で、彼らを取り巻く光と影を追い、第2回では鹿児島県・徳之島での島猫の一斉不妊化事業を紹介した。
最終回の今回は、大規模再開発が始まった東京・武蔵小山で生きる野良猫の姿から、猫と人間とのあるべき関係について考える。


 第1回「なぜ飼い犬が減り、飼い猫が増えているのか」 
第2回「島猫3000匹の「不妊化」は、人間のエゴなのか」 

品川区と目黒区にまたがる武蔵小山で今秋、「昭和の匂い」を残す飲み屋街の取り壊しが始まった。
名物は全長800メートルのアーケード商店街で高層建築が珍しかったこの地域に、約3年半後には41階建てのマンションが建つ。
東京五輪を控え、似たような再開発は都内各地で進んでいる。

 飲み屋街には野良猫がつきもの。再開発で寒空の下を追い出され、さらなる苦難に遭うイメージが強い。
しかし、ここはひと味違う。ボランティアが不妊・去勢手術を徹底して給餌や糞尿の始末を行い、周辺からの猫の流入にも目を光らせてきたからだ。

■ 飲み屋街の野良猫は50匹から15匹に

 その活動を現在一手に担う寿司店経営の廣井一恵さんは「この地域のすべての猫が手術済みだと知れ渡り、苦情もほとんど出なくなった」と語る。
彼女が8年前にボランティア仲間と活動を開始した当時に約50匹いた野良猫は現在、15匹程度まで減った。

 4年前に筆者が武蔵小山に転居してきた当時と比べても、糞尿の匂いは気にならなくなった。
食料事情や住環境で差があるが、野良猫の平均寿命は4~5年。顔見知りの猫も数匹、この世を去った。
残された野良猫たちも工事現場に隣接した地域で、それなりの余生を送ることができそうだ。
 狂犬病対策で管理が厳しい犬と違い、外にいる猫の生態は把握しにくい。
しかし、参考になる数字はある。東京都は政策実施のための情報収集目的で1997、2006、2011年度に猫の飼育実態を調べてきた。飼い主などへのアンケートに加え、無作為抽出した地点で実地調査を行った。

 2011年度調査では、同年12月に30カ所で日中に見かけた猫の数と特徴を調査。都内にいる総数は111万匹で、うち屋内限定の飼育86万匹、外にも出す屋外飼育19万匹、飼い主のいない野良猫は6万匹との推計を出した。

 ただ、野良猫が徘徊する主要な時間帯は、車や人が少ない早朝や深夜だ。実際の数は6万匹より多いかもしれない。

 年度によって数字の変動はあるが、屋内飼育は着実に増えている。
理由として都福祉保健局の原口直美・環境衛生事業推進担当課長は「猫を飼えるマンションが増えたのに加え、屋外での感染症や事故などのリスクを防ごうとする意識が高まっているためだ」と説明している。

■ 最大の懸案は子猫の取り扱い

 また、2011年度調査では、飼い猫を不妊・去勢しているとの回答率はオス85%、メス86%だった。
手術を怠っている間にペットが異常繁殖し、飼い主の手に負えなくなる「多頭飼い崩壊」のリスクが、ある程度は存在していることになる。

 翌2012年度に都内で殺処分(病死や事故死も含む)された犬猫は2398匹(成犬186、子犬0、成猫663、子猫1549)。2014年度はそこから半減して1116匹(成犬61、子犬0、成猫376、子猫679)となった。ちなみにピーク時の1983年度には、犬猫合計で5万6400匹を超えていた。

 子猫が目立つのは、不妊手術されていない野良猫が外で産み落とすケースが多いからだ。その相手が、去勢されてないまま外に出されている飼い猫である場合もある。

 都の動物愛護センターでは、飼い主から引き取りについて相談されると「詳しく事情を聴き、飼育を継続するよう指導している」(栗原八千代・業務係長)が、飼い主不明であれば状況を確認した上で受け入れることになる。
引き取り後に病死した場合でも、統計上は注射や炭酸ガスによるのと同じ「殺処分」扱いとなる。
ただ、確率は低いが、健康に育てばセンターと連携している愛護団体などに引き取られ、飼い猫になる可能性は残されている。
住宅街や河原などに捨てられて、無残な死を遂げることは避けられるのだ。

 都も繁殖制限の重要性を認識。自治体によって額や条件は違うが、不妊・去勢手術に助成金を出している。
文京区ではモデル地域内の場合、飼い主のいない猫の手術を全額補助する。
港区や新宿区などは、飼い猫の手術でも一定額を支給している。

 筆者が里親探しを始めたきっかけは約3年前、多頭飼い崩壊で捨てられた猫を助けたことだ。
1人暮らしの男性が拾った猫数匹が、不妊手術を怠っている間に急増。1年足らずで6畳の部屋に20匹以上がひしめいた。
男性は親猫を保健所に送ったが、子猫は殺すに忍びず数匹ずつに分け、広い公園に捨てた。
彼が助成制度を知っていたら、状況は違ったかもしれない。

■ 中途半端な善意が地獄を作る

 この猫たちはボランティアが不妊・去勢し、公園で餌をもらうことになった。
しかし、一部はその後、夜の公園で暴行を受けて死亡した。
会社員の「かわいそうだから連れて帰ろう」との善意がこんな地獄を生み出した。

 こうした例は枚挙にいとまがない。
だが、今回の連載取材で訪れた川崎市動物保護センターで、2013年4月に74匹の多頭飼い崩壊が起きたと聞かされた時は、さすがに驚いた。

 大半の猫は引き取られたが、現在も飼い主募集中の数匹は、ガスによる殺処分設備(約5年前に稼働停止)が残る部屋のケージ内で寝ていた。
皮肉な光景ではあるが、「里親探しすると決めた動物は殺さない」(角洋之所長)方針に沿って世話を続ける犬や猫の数が多すぎるため、ほかに置き場所がないのだ。

 また、ボランティアには人目を避けて餌を撒き散らして後始末をしないなど、マナーが悪い人も多い。
彼らに対する猫嫌いの人々の反感が、虐待につながっている側面も、確かにある。

 前述の都の2011年度調査では、外にいる猫の糞尿や鳴き声を「迷惑だ」とした回答率は62%、野良猫への餌やりを「良くない」と答えたのは58%に上る。
善意から出た行動でも、決して地域に歓迎されてはいないのだ。

品川区を中心に野良猫の保護や不妊手術、里親探しを15年間続けてきた自営業、岸雪子さんは、「ボランティア間の連携を取るのは本当に難しい。猫を助ける目的は同じなのに、みな個性が強く、自分のやり方を通そうとするからだ」と嘆く。

 岸さんの経験を幾つか紹介する。
自身の餌やりが原因で増えた猫を不妊手術したいと言ってきた年金生活者に捕獲器を貸したものの、使い方を覚えようとせず、猫が入るまでの見張りすら断られた。
公園で暮らす猫の里親が何とか見つかった時、餌やりに参加している女性の1人が「私の猫を連れていくな」と怒り、話が流れかけたこともあった。

 外にいる猫を捕獲して人馴れさせるには手間と忍耐が必要だ。
医療費は病院側の言い値のため、良心的な獣医を見つけないと費用もかさむ。
こうした苦労を経て里親募集にこぎ着けた猫を、ボランティアが相手の身元を十分チェックせず渡す例もある。「里親詐欺」による転売や虐待が相次いでいると警告すると、「人を疑うなんてできない」との答えが返ってきた。これも中途半端な善意ではある。

■ あと少しだけ、勇気と工夫と配慮を

 こうした現実を打開するヒントとして飲み屋街の廣井さんに話を戻す。
彼女は毎日、店の休憩時間や夜間に「猫のトラブル減らします」とのたすきをかけ、自転車で武蔵小山各地の餌場を回る。
警戒感が強く、すぐには食べない猫もいるため、餌を入れた器の下に「この器は15分で回収します」と書かれた紙を敷き、他の場所を回って戻ってくる。当然、糞尿も掃除している。

 本人いわく、苦情が少ないのは、猫嫌いの人の存在にも配慮しながら、目的を明確に説明して堂々と活動しているからだ。
飲み屋の一部からは当初、反発もあったが、猫のために餌と水を軒先に置いてくれる店も出てきたという。

 もの言えぬ小さな命を助けたいと考えるのは、人としての自然な感情だ。
そして、他人へのちょっとした配慮や工夫、そして勇気の持ち方次第で、猫たちの運命は簡単に変わる。
人間の側は、こうした事情を心に刻むべきだろう。
不動産や株のバブル同様、「猫ブーム」が崩壊すれば、捨て猫が増える可能性もあるのだから。

駅 義則


スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

mami

  • Author:mami
  • メールはこちらに☆
    bellpapi2@yahoo.co.jp

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

ブログ内検索
RSSフィード
リンク